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[読書メモ] リーン・スタートアップ

2020年4月11日

実は再読になるのですが「リーン・スタートアップ」を読んでみました。この本は、2011年にアメリカで発売されて、日本での翻訳版の発売は 2012年になります。

この本の概要

トヨタの「リーン」生産方式にならって、「リーン」(無駄のない)形で、スタートアップの開発サイクルを始めていきましょう。という話です。

MVP (Minimum Viable Product)

もともとスタートアップは、新しいプロダクトを作らないといけないため、ユーザーが求めているものを読み誤って製品づくりに進んでいくことがありえます。

ですので、できるだけ小さな製品 MVP (Minimum Viable Product) を作り、必要な労力を最小限にして、まず「この仮説であっているのか?」という事を少しづつ確かめながら製品を作っていきましょう。というお話です。

ここで言う「仮説」とは、作ろうとしている製品のコンセプトを欲しがっている人がいるのか。という基本的なものから、この機能は必要なのか(ユーザーにとって)など、全てに渡ります。

「仮説」ごとの小さい単位で、

構築 - 計測 - 学習 (Build-Measure-Learn)

を回していく事を、「リーン」な開発としています。

「学習」がわかりにくいですが、つまりははじめに立てた「仮説」が正しかったかどうかの「学び」です。

PDCA に似たものですが、Plan の部分は「(ユーザー)はこう思っているだろうか?」という「仮説」であり、Check に相当するであろう「計測」は常に顧客のフィードバックである必要があるという点に重点を置いています。(本書の中で PDCA との比較が行われているわけではありませんが、強調したいポイントを変えただけで基本は同じものだと思います)

「リーン」な開発は、「ユーザーはこれを欲しがっているだろう」という仮説のまま進んで間違った投資をしてしまう事を防ぐとされています。

Dropbox は、そもそも MVP を作ることが技術的に負荷が高く、価値を伝える事ができる製品を作る投資をするにはリスクが大きすぎたため、まずは実際に動作している風のビデオを作って、反応を確かめ、その反応を元に製品の開発に着手した事が例として上げられています。

また、思い込みは捨てて、すべて「仮説」だと思い、それを検証する事を提案しています。本書の中でも「こうすれば当然ユーザーが喜んでいると思っていた事が、検証してみた所、まったく効果がないことが測定された」的な事例がいくつか出てきます。

例えばあるソフトウェアは、ユーザー登録をしないで使うことができるようにしていたものの、試しに事前に登録してみないと使えないようにしてみたものの、ユーザーの行動に全く影響がなかった事が示されています。

ピボット

検証を繰り返しても、定義した指標に対して期待した影響が現れない場合は、方針を転換 (ピボット) する必要がでてきます。

例えば、製品はそのままに、対象の顧客を個人から企業に変える「顧客セグメント型ピボット」という方法があります。著者はその他にもいくつかのピボットの種類を本書の中で体系化しています。

他にも「革新会計」という概念や、「バッチサイズ」の話、「成長エンジン」(つまりビジネスモデル)にどんなタイプがあり、それぞれの「成長エンジン」ごとにどのようなものを指標にすべきか等、著者自身の経験や、大企業での適用について本書内で語られています。

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現代では時代遅れ?

もともと原著は 2011年(翻訳版は 2012年) に書かれています。

その後、MVP の考え方でクオリティの低いお試し版のような製品を一回リリースすると、現代では SNS で一気に拡散されてしまい一気に悪評が立ってしまい、2度と復活できなくなることがあるので業界によってはこの方法は成り立たない。と言う指摘が、本書が発売された翌年の 2012年に Tech Chrunch の記事でされています。

この書籍の中で「アーリーアダプター」は、通常の起業家(アントレプレナー)が存在を受け入れがたい、クオリティが低くてもそう言った製品を試したいと思う変わりもの?として記述されています。

そういった見つけるのがむしろ難しい「アーリーアダプター」が、敢えて SNS で文句を言う事は無いと思いますが、オープンな環境で製品をリリースしてしまうと、面白がって品質を取り上げて炎上させる人も出てくるのが現代なので、気を付けた方が良いでしょう。

しかしこの本に登場するアーリーアダプターは、必ずしもネット上のサービスをの話だけでなく、たった1名のアーリーアダプターに対して、起業家が自宅に訪問して、試しにサービスを使ってもらい「学習」をしていく例も出てきます。時代遅れというのは、一部の可能性をピックアップしただけで、「リーンスタートアップ」の本質的な指摘では無いと言って良いでしょう。

なお、本書の MVP (クオリティは低いけどとりあえず動く製品)が大事。と言う部分だけが取り上げられる事が多いですが、本書では、そのうちアーリーアダプターの顧客を食いつぶししてしまうので、どこかでクオリティの高い製品を好むメインストリームのユーザーに向けてピボットしないと成長できないと書かれており、いつまでも MVP で良い。という話では無いので注意が必要だなと思いました。

内容以外の所 - 英語で読める人は英語で読んだ方がいいかもしれません

内容的には翻訳のせいなのか原文のせいなのか、やや読みにくいです。何度か読んでも意味がよくわからないものの「多分、こういう事をいいたいのでは?」と想像して読まないと理解が難しい事が結構ありました。

原文を推測しても、この原文をわかるように翻訳しようとすると、かなり大胆にアレンジだったり文の追加や構成の見直しをしないとわかりにくいかも。という気もしました。

ちゃんと読もうとすると、すらすら斜め読みで行けるタイプの本では無かったです。

例えば「革新会計」という言葉が出てきます。

収益だったり、ユーザー数の伸びだったり、既に確立されたビジネスで使われる数値は、スタートアップでは本当にそのビジネスが成長しているのかを表さない。としています。スタートアップのビジネスは、確立されたビジネスとは違う尺度でその可能性を計測する必用があります。

そのためスタートアップでは、従来の会計の概念で使われるものとは違う数値を指標にしなければいけない。という意味で、既存の会計の対義語として「革新会計」という言葉が使われます。

「革新会計」の英語は「Innovation Accounting」です。

Innovation Accounting is a way of evaluating progress when all the metrics typically used in an established company (revenue, customers, ROI, market share) are effectively zero.

本書内で著者が指摘しているのは、スタートアップで使うべき、指標は「有料ユーザーの比率」だったり、「友達に紹介した率」だったり、従来の「会計」で使われるものとは次元の事なる指標です。

英語の「Accounting」には、「経理」の意味の他に「説明」という意味ががあります。「説明責任がある」という時に、形容詞系の「accountable」が使われたりします。

英語だと「Accounting」を使っても「説明できる指標」という意味にもとれるので、「Innovation Accounting」は「経理」以外の意味にもとりやすいと思うのですが、日本語で「会計」と言われてしまうと、例えば「友達に紹介した率」とイメージが結びつきません。

こういう部分は非常に翻訳が難しく、原文からして本書をわかりにくにくしていると思いました。英語が得意な方は英語で読んでみるのも良いかもしれません。

また、本書ではトヨタの生産方式について言及が多々あり、ググりながら読み進めました。

海外でトヨタの生産方式が知られるようになったは、1990年に書かれた以下の本が発端だそうです。

本書のあとがきでは、フレデリック・ウィンズロー・テイラーの「科学的管理法」に対する言及がありました。これも知られた名著らしいので、時間があれば読んでみたいです。

おすすめ度

ちょっと読みにくいのですが、著者の経験談が貴重なのと、やはり古典だけあって学ぶ所が多い本だと思いました。

 

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